ビールの原材料のモルトとは?モルトの種類や使い方を解説します
更新日:2020.03.30 / 投稿日:2020.03.28
こんにちは!
最近一番欲しいものがビール専用冷蔵庫なCRAFT BEER TIMES編集部の熊倉です。
唐突ですが、ビールに一番欠かせない原材料はなんだと思いますか?
その答えは「モルト」であると私は思っています。
ビールのあの香ばしい風味と甘い味わいは、モルトによって生み出されています。
- そもそもモルトってなに?
- モルトにはどんな種類があるの?
- モルトはビールにどんな影響を与えるの?
などなど、今回はこのモルトについて深く掘り下げて解説していきます!
知ってるようで意外と知らないビールの「モルト」のこと。
ビールへの知識を深めるために、是非ご一読ください。
モルトの概要
モルト(麦芽)とは発芽した麦を乾燥させたもので、ビールの4大原料(※)のうちの一つです。
モルトはビールを発酵させるための糖分を持っており、ビールに様々な色味と豊かな麦の風味を与えています。使われる麦の種類は大麦が一般的ですが、小麦やライ麦、オーツ麦が使われるビールもあります。
大麦には穀粒の数の違いから二条大麦と六条大麦の2種類があり、多くの国では二条大麦が一般的に使われています。
また、モルトは乾燥した穀物であるため、腐敗の恐れが無く保存性の高い原材料です。
この輸送や保存が容易である特性は、世界各地でビールが製造されている理由の一つでもあります。
※モルト・ホップ・水・酵母がビール4大原料とされています
モルトの作り方
次にモルトの作り方の手順を解説します。
1. 浸漬
麦を水に浸して水分を与えます。
水を与える期間は一般的に約15度の水に2日~2日半ほど。
2. 発芽
水を含んだ麦は次第に発芽していきます。
小さな根っこが麦のお尻から少しずつ生えてきて、麦が熱を帯びるようになります。この発芽によって、でんぷんやタンパク質を分解する酵素が生まれるのです。
発芽期間はだいたい4~7日ほど。
3. 焙燥
ある程度発芽が進んだら、酵素を死滅させない低温の熱風を当てて麦を乾燥させての成長を止めます。温度は一般的に50度程度から始まり、ゆっくりと90度以下くらいまで上げられます。
熱風を当てずに天日干しによって焙燥させる場合もあります。
4. 除根
焙燥した麦芽の根っこを取り除きます。
根っこが残ると渋味や苦味などの原因となってしまいます。
5. 焙焦
100度を越える高温のロースターで麦芽を加熱します。
これによって香ばしい風味と色味が麦芽に与えられます。
この工程は濃色モルトでのみ行われ、淡色モルトには不要です。
モルトの役割
ビールにおけるモルトの役割は大きく分けて3つあります。
- ビールを発酵させるための糖分をつくる
- ビールに風味を与える
- ビールに色を与える
これらの役割についてそれぞれ解説していきたいと思います。
1. ビールを発酵させるための糖分つくる
モルトは、ビールが発酵するために必要となる糖分(甘味)を持っているというところがポイントです。
これは言い換えると、「麦のままでは糖分を持っておらず、モルトにすることで糖分を持つようになる」ということでもあります。
なかなか難しいですね…
でも大丈夫です!しっかりと解説していきます。
まず前提として、麦はデンプンを含んでいます。
デンプンは糖分の塊ではありますが、デンプンのままでは甘味を感じることができません。
そしてさらに、デンプンは塊が大きすぎるので酵母がアルコール発酵に使うこともできません。
ではどうするかというと、ここで麦を発芽(=モルト化)させる必要があるのです。
麦は発芽することによって、デンプンを分解することのできる糖化酵素が活性化されます。
この糖化酵素が働くことで、麦の中にあるデンプンが糖分に分解されるのです。このデンプンを糖分に分解する働きのことを糖化といいます。
例えば、ご飯を噛んでいくとだんだん甘さを感じるようになってきますよね?
それは何故かというと、私たちの唾液に含まれる糖化酵素がご飯に含まれるデンプンを糖化して甘味に変えているからなのです。
それと同じようなことが、モルトの中でも起こります。
麦は発芽(モルト化)することで自らの酵素によって自らのデンプンを分解して糖分を生み出し、そしてその糖分を使って酵母がアルコール発酵し、ビールとなっていくのです。
ビールの作り方については下記の記事でも解説しているので、もっと詳しく知りたい方は合わせてご覧ください。
2. ビールに風味を与える
モルト麦が発芽したものなので、もちろん麦の風味を持っています。
そのため、ビールにもその麦のキャラクターを与えることになります。
どのような風味がビールに与えられるかは、使われるモルトの種類や仕込み方法によって様々です。
とはいえ全体としては、麦、パン、コーンなどの穀物のような香ばしさや甘味が共通して感じられます。
また、モルトの焙煎度合いが高まるとコーヒーやカカオなどの風味が強まります。
例を挙げると、モルトの風味には以下のような表現がよく用いられています。
- トースト
- ビスケット
- ナッツ
- カラメル
- チョコレート
- カカオ
- コーヒー
3. ビールに色を与える
モルトの色はビールにもその色の影響を与えます。
色の淡いモルトを使ったビールは淡く、焙焦された濃色のモルトを使ったビールは色の濃いビールとなります。
淡色モルト | ピルスナー、ゴールデンエール、ヴァイツェン |
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濃色モルト | ポーター、スタウト、シュバルツ、デュンケル |
ビールの色は使われている麦芽の色によって決められるということがわかりますね。
しかし濃色ビールに関しては、濃色モルトだけが使われているわけではありません。
実は、モルトは焙焦度合いを高めれば黒い色味と香ばしさが増す半面、デンプンを分解する糖化酵素は減少していきます。
そのため、濃色モルトだけでは発酵するための十分な糖分を得ることができなくなります。
ですので濃色タイプのビールは、淡色モルトに濃色モルトをブレンドして造られています。
モルトの種類
モルトには様々な種類があります。
それぞれのモルトによって、ビールに与える影響や役割は大きく異なるのです。
モルトの種類は焙燥・焙焦のレベルでも分けることができます。
大まかには…
淡色モルトは酵素力が強く、発酵のエネルギー源となる。
濃色モルトはビールにボディと風味を与える。
このように言えます。
具体的なモルトの種類は以下のようなものがあります。
淡色モルトと濃色モルト、そして大麦以外のモルトでそれぞれのグループに分けて紹介します。
淡色モルト
焙燥のみで作られた黄色~薄茶色の淡い色のモルト
ペールモルト
ほとんど全てのビールで使うことができる基本的なモルト。ベースモルトとも呼ばれます。
淡い黄色から薄茶色ほどの色合いがあり、強い糖化酵素を持っています。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ペールエール、IPAなど、ほぼ全てのビール
ピルスナーモルト
こちらも様々なビールに使われるベースモルト。
ペールモルトよりも低温で加熱されるため色は淡くなり、より酵素力も強くなります。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ピルスナーなど、ほぼ全てのビール
ウィーンモルト
少し色の付いたモルトで、ビールに香ばしさや赤みがかった色を与えます。
酵素力は十分にあります。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ウィンナーラガー、レッドエールなど
ミュンヘンモルト
ウィーンモルトよりも高温で焙燥させたモルト。
甘く香ばしい風味とややブラウン寄りの色をビールに与えます。
酵素力はやや弱め。
【このモルトが使われているビアスタイル】
アンバーエール、デュンケルなど
濃色モルト
焙焦された香ばしく黒々とした色合いのモルト
カラメルモルト
水に浸したモルトを乾燥させず、そのまま加熱したモルト。
そのため糖化酵素が活性化し、一部のデンプンが糖分に変換された状態になります。
その糖分がさらに加熱によってカラメルに変化し、ビールに甘みとボディを与えます。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ブラウンエール、バーレイワインなど
チョコレートモルト
高温で焙焦されたモルトで、濃い茶色のような色をしています。
その名の通りチョコレートやナッツの風味を持っており、ポーターやスタウトなどの黒ビールに使われます。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ポーター、スタウト、シュバルツなど
ブラックモルト
チョコレートモルトよりも高い温度で焙焦され、真っ黒になったモルト。
コーヒーのような香ばしい香りと苦味、酸味をビールに与えます。
酵素力はほとんど残っていません。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ポーター、スタウトなど
ローストバーレイ
麦芽化していない大麦を焙焦したもの。
真っ黒な見た目と、焦げによる苦味が特徴。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ギネスビールを代表とする伝統的なアイリッシュスタウト
大麦以外のモルト
ウィートモルト
小麦を使ったモルト。
たんぱく質を豊富に含み、滑らかな口当たりときめ細やかで豊かな泡持ちをビールに与えます。ほのかな酸味をビールに与えることもあり、またたんぱく質は濁りをもたらします。
糖化酵素は大麦モルトに劣りますが、十分に強いです。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ヴァイツェン、ベルジャンホワイト、セゾンなど
ライモルト
ライ麦を使ったモルト。
ライモルトを使ったビールは、独特の土のようなスパイシーな風味とドライな味わいが特徴です。
小麦モルトと同様に、口当たりを滑らかにする効果と、焙燥する事でカラメルの風味をビールにもたらす効果もあります。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ライエール
オーツ麦
ビールにシルクのような滑らかさとボディを与えます。
豊富なたんぱく質を持っていて、ビールに濁りと滑らかさを与える反面、甘みを加えることはありません。
オーツ麦は麦芽化せずに、挽き割りして細かく砕いたオートーミール状で使われます。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ヘイジーIPA、スタウトなど
スモークモルト
燻製された独特の香りのするモルト。
スモークモルトを使うことで、ビールに非常に個性のある香りを与えることができます。
ドイツのラオホビールは、ブナの木で燻したモルトが使われます。
スコットランドではウイスキーに使われるピートで燻したモルトがあり、スコッチウイスキーのような風味のビールが出来上がります。
【このモルトが使われているビアスタイル】
ラオホ、スコッチエールなど
まとめ
今回はビールづくりの要とも言える原材料の「モルト」について解説させていただきました。
今回の記事で大事なポイントをおさらいしますと…
- ビールに使われているのは「麦」ではなく「モルト」
- モルトはビールが発酵するための糖分を持っている
- 淡色モルトは淡色ビールを、濃色モルトは濃色ビールを作り出す
と言ったところになります。
普段モルトを意識してビールを飲むことはあまりないかもしれませんが、これを機に次回ビールを飲むときには麦の風味を感じ取ってみてください。
ビールに使用されているモルトの種類は公開されていないことも多いので、ビールの味わいからモルトの種類を想像するのも楽しいですよ!
それではまた!