ホップとは?ビール造りにおけるホップの役割や種類などを解説します
更新日:2020.04.05 / 投稿日:2019.11.17
こんにちは!
CRAFT BEER TIMES編集部のサトウです!
私は以前営業職に就いていたのですが、そのときの得意先のお客さんに勧められ「ギネス」「デュベル」「インドの青鬼」の3本を初めて飲み、感動したことがきっかけで、今ではビールの世界にどっぷりとハマったビール愛好家となりました。
ところで皆さん、最近美味しいビール飲んでますか?
最近は第三次のクラフトビールブームと言われており、クラフトビールを置いてあるお店も、ブルワリーさんも、ブルワリーさんが作るビールも増えてきたな~、と感じています!
世の中には色々なビールがあり、それぞれ個性を出すために様々な材料が使われていますが、ビールの材料として共通しているものは「麦芽、酵母、ホップ、水」の4つです。
今回はこの中から「ホップ」に着目し、ビールの材料としての他、様々な用途でも使われているこの「ホップ」という植物について詳しく解説していきたいと思います!
最後までどうぞお付き合いください!よろしくどうぞ!
ホップとは?
そもそもホップって何?
ホップとは、アサ科のつる性の多年生植物の事で和名は西洋唐花草(せいようからはなそう)というビール造りには欠かせないハーブの仲間の植物です。
その特徴としては、
- ツルの高さがとても高いこと(およそ7~12メートル)
- 一度植えるとその根株は10~30年ほど繰り返し使用されること
- 雌株には普段イメージされるホップの形である毬花(本当の花ではなく。味は苦い)と呼ばれるビール造りに使う部分が出来る事
- 雄株は使用されない事(ビール造りに使うのは受粉前の雌株の使用が一般的)
などがあげられます。
原産地はコーカサス地方(黒海、カスピ海に挟まれたコーカサス山脈を含む面積が約44万平方キロメートルの地域)といわれており、野性の物では、欧州東部~シベリア西部と言われております。
なぜホップをビールに使うの?
ホップをビールに使う主な目的としては、
- 苦味付け
- 香りづけ
- 殺菌効果
- 清澄化
- 泡の持ちをよくするため
などがあげられます。
ホップの中にあるルプリンという黄色い球体があるところからアルファ酸という苦味成分が発酵中の液体に溶け出す事で苦味がビールに移ります。
このアルファ酸が麦汁に入り熱が入ることで、ビールのキレの良い苦味の成分であるイソアルファ酸に変化します。
その変化に伴って清澄効果が現れ、ビールの濁りが取り除かれるのです。
また、殺菌効果という点でホップが注目されるようになったのは、イギリスが大英帝国時代にインドを植民地支配していた頃に遡ります。
当時イギリスからインドまでは赤道を渡りアフリカ大陸を経由してビールを運んでいたのですが、当時は今と違い冷蔵技術が未発達で帆船での長い航路でした。
その為にビールが暑さに負けて腐ってしまう事があり、その対策にホップを大量に入れてみた所、インドまでビールが腐る事なく苦味が強くなり更に美味しくなったという発見に繋がりました。
これが今のIPAの始まりと言われております。
現在のビール業界におけるホップ
1994年の酒税法改正に伴って起こった第一次ブームから、世界的なコンクールで賞を受賞する高品質なビール造りを行う醸造所の台頭があった2010年頃の第二次ブームに続き、現在は第三次クラフトビールブームと言われております。
大手メーカーが減収する中、クラフトビールの醸造所は軒並み増益しており、また新たな醸造所の数も増え続けています。
2018年4月1日の酒税法改正に伴い、生ビールに使える副原料が多くなり、ビール造りがより自由になったこともブームを牽引する一因となっています。
また、第三次のブームは単にビールの人気が高まっているから発生したというだけではなく、地方の町おこしという面もあります。
町おこしや農業振興の一環として、「地元でホップを作ろう」「地元産のホップを使ったビールを作ろう」という動きが各地で見られます。
その例として記事をいくつか紹介させて頂きます。
- クラフトビールで町おこし 妻有ビールプロジェクト
- 3人の移住者がブルワリーパブ 「遠野醸造」をオープン。ホップの産地ならではのクラフトビールが生まれるまで
- 秋田)ホップで「世界を目指す」 横手の小棚木裕也さん
現在のビール業界においては、このように国産ホップや国産の副原料を使うビールが次々と登場してきています。
国内でも美味しいホップ、そしてビールが造られていることは、いちビールファンとしても嬉しい限りですね。
覚えておきたいホップの種類10選
ホップは大まかに下記の3種類に分けることができます。
- 香りが強いアロマホップ
- 繊細かつ強く香るファインアロマホップ
- 香りより苦味を重視するビターホップ
ホップは数多くの種類が存在するのですが、ここでは覚えておきたい代表的なホップを10種類紹介いたします。
1. ザーツ
チェコの代表的なホップです。
苦味が綺麗で爽やかな香味を持つファインアロマホップという種類に分類されます。
主にボヘミアンピルスナー、ラガー、ケルシュなどのビアスタイルに使用されます。
このホップが使われているビールの例
- ピルスナーウルケル
- サントリー プレミアムモルツ など
2. ケント・ゴールディング
イギリスで古くから使われており、1790年から栽培が続いているクラシカルなホップです。
柔らかで華やかな香りを持っており、ブリティッシュペールエールを作る際は欠かすことの出来ないホップです。
このホップが使われているビールの例
- 常陸野ネストビール ペールエール など
3. カスケード
1972年にアメリカで誕生したホップです。
このホップを端緒にしてホップの革命が進み、クラフトビールの人気を押し上げる大きな要因となったホップであり、現在のクラフトビール業界でもよく使われているホップの1つと言われております。
シトラス、グレープフルーツのような柑橘の香りとなめらかな苦みが特徴です。
このホップが使われているビールの例
- ヤッホーブルーイング よなよなエール など
4. シトラ
2008年に新しくアメリカで誕生したホップです。
レモン、オレンジ、グレープフルーツのような香り、特別なシトラスの香りを持っています。
柑橘系の強くフルーティーな香りもさることながら、上記のα酸含有量の多さから見て取れるように苦味が強いのも特徴です。
その為、香りづけと苦み付けの両方で用いられることがあります。
ペールエール、IPA、セゾンなどに使用されることが多いアロマホップです。
このホップが使われているビールの例
- 胎内高原ビール シトラヴァイツェン など
5. アマリロ
高いα酸含有量を特徴に、柑橘やフラワリーな華やかな香りが特徴のアメリカ産ホップです。
オレンジ、グレープフルーツ、アプリコット、レモン、ピーチのような香りで特に、みかんに似た香りが特徴的です。
ウィートペールエールやIPAなどに使われております。
このホップが使われているビールの例
- ブリュードッグ パンクIPA など
6. モザイク
アメリカワシントン州で生まれたホップです。
グレープフルーツなどを思わせる柑橘系・マンゴーやパイナップルのようなトロピカルフルーツ・香り高いハーブなど、様々なアロマが複雑に混ざり合っていることから「モザイク」という名前が付けられました。
このホップが使われているビールの例
- カールストラウス アイソメライザーIPA
- うちゅうブルーイング 宇宙IPA など
7. マンダリナ・バーバリア
米国産カスケードなど3種からなる交配種で2012年にドイツで生まれた新しいホップです。
主にタンジェリン、グレープフルーツ、ライムなどの柑橘の香りがするホップです。他の農業作物と同様にホップも品種改良等を行います。
ちなみにドイツのホップ事情に関して言うと、伝統的なドイツのスタイルのビールに使われているホップに加えて、昨今のクラフトビールの需要の高まりを受けて、米国ホップにあるような強い柑橘系の香りのするホップの生産も増えてきているとの事。
このホップが使われているビールの例
- 富士桜高原麦酒 マンダリナバーバリア など
8. ソラチエース
日本発祥のホップで、おそらく国産品種で最も評価が高いのでは?と思われる品種です。
サッポロビールが開発し、その後アメリカで広く栽培されるようになりました。
レモンのようなさわやかな柑橘の香り、ヒノキのような落ち着いた気品のある香りが特徴で、ペールエールやセゾンなどで使用されれています。
このホップが使われているビールの例
- サッポロビール SORACHI1984 など
9. ギャラクシー
ニューワールド(新世界)のホップとして注目されています。
1994年にオーストラリアで誕生した、シトラス・レモンのような柑橘の香り、トロピカルフルーツのような濃厚な甘い香りと強い苦みを持つホップです。
比較的新しい品種ですが、特徴的な香りや味が人気になり一気に人気品種になったホップです。
このホップが使われているビールの例
- Voodoo Ranger Starship IPA
- グランドキリン セッションIPA ギャラクシーホップ など
10. ネルソンソーヴィン
こちらもニューワールドとして注目されているホップです。
2000年にニュージーランドで誕生した品種で、白ワイン用に栽培されているソーヴィニヨン・ブランという品種に似ているところからネルソン・ソーヴィンと名付けられた品種です。
分かりやすく言うと白ブドウのような甘く爽やかな香りが特徴です。
このホップが使われているビールの例
- グランドキリン ホワイトエール など
ホップとビールの歴史
有史以来のホップの歴史
実はホップはいつ誕生したか正確には判明していないのですが、原産地は黒海とカスピ海に挟まれたカフカス(コーカサス)あたりと言われています。
本格的にホップが注目されるようになるのは12世紀の事です。それは中世ドイツの女性修道士である、ヒルデガルド・フォン・ビンゲン(1098-1179)という人物の発見によるものでした。
彼女は医学と薬草学に精通し、作家であり、言語学者、詩人、さらには歴史的最初期の女性作曲家であり、神秘家という、賢女の名前にふさわしい、まさに「万能の天才」といえる人物でした。
ヒルデガルドの功績により、14~15世紀にはホップを使ったビールの苦味、香り、風味、長持ちする点が評価されホップを使ったビールが一般的になりました。
冷蔵設備もなく長期保存が難題だった頃は、特にその防腐効果(麦汁を煮る際にホップを使うと長持ちするという点)が高く評価されました。
ホップの評価が高まるにつれて、ホップの栽培も盛んになっていきました。
日本でのホップの栽培はいつからはじまった?
日本での栽培は1877年(明治10年)に、北海道開拓使が外国から苗を持ち込み栽培したのが始まりと言われております。
現在では主に北海道、青森、秋田、山形、岩手県、長野などの冷涼な気候の土地の各県で栽培されてます。
ホップの使い方
ビール造りにおけるホップ
ビール造りにおいてホップは様々な形態で用いられています。
以下、各形態でのホップの特徴を説明していきます。
フレッシュ
収穫したばかりの新鮮なホップの事です。
もっとも香りが新鮮ですが、水分量が多いためすぐに使わないと腐敗する可能性が高くなります。
冷凍保存する場合もあります。
ドライ
ホールホップと呼ばれるものです。
生のホップの形を残したままなるべく香りを残したまま乾燥させたものです。
自然に近いかたちということにこだわり、こちらを愛用するブルワリーもあります。
ペレット
粉末に加工してから円筒状に加工したものです。
品質が一定に保て、運搬性と保存性が非常に高いです。
ペレット上にすることで内部の酸化を防ぎ苦み成分を抽出しやすくなっています。
現在のビール造りにおいてよく使われている形の一つです。
フローズン
収穫後のホップは水分量が多いため、すぐに使わない場合、何らかの形で保存する必要があります。その中の一つが冷凍保存です。
収穫後すぐに冷凍する事で収穫直後の香りをほぼ維持できるという利点があります。
冷凍したホップを細かく砕いたものを使うような形を採る事が多いようです。
オイル
収穫後のフレッシュホップに高温の蒸気を当てるとオイルを抽出でき、これをビール醸造に使います。
通常のホップより香り、風味の強いビールが出来ると言われています。
パウダー
ホップを酸化が少ない環境で液体窒素にあてて、濃縮されたルプリンパウダーと苞葉に分離した形です。
特徴としてホール、ペレットのホップに比べて2倍のα酸が含まれていますが、渋みや植物の感じは抑えられるとのこと。
ビール造り以外におけるホップ
実はホップはビール以外でも様々な用途で使われております。
いくつか例として紹介いたします。
薬
ホップと言えばビールですが、薬草としての側面も持ち合わせており古くから鎮静剤、睡眠薬としての使用がありました。
現代医学において認められている効果は不眠の改善、生活習慣病の予防改善、花粉症の予防、ダイエット効果、食欲増進、女性の更年期障害の改善などです。
お茶
ホップはハーブティー(ホップ茶)としても利用できます。
ホップはエジプトから世界各地に広まりましたが、北米大陸の先住民族であるネイティブアメリカンの人々はホップを煎じたお茶を寝る前に飲んだり、傷薬として使用していたそうです。
エッセンシャルオイル
草木や果実や樹皮などの自然物から精製した心身に好影響を与える油の事をエッセンシャルオイルと呼びます。
ホップから抽出されるオイルもエッセンシャルオイルとして利用する事が可能です。
効果は薬としての効果と同様で、こちらも鎮静効果等が期待できます。
食材
ホップは、無毒のハーブなので食べることも出来ます。
Cookpadにもレシピがありましたので、いくつか例をご紹介します。
普段の日常生活の中で、ホップを購入する事はあまりないかもしれませんが、もし機会があれば是非お試しください。
【余談】ホップを使わないビールもある?
15世紀頃にヨーロッパ全域にホップを使ったビール造りが広まるまでは、「グルート」と呼ばれる調合されたハーブを使うのが一般的でした。
主にヤチヤナギ、ノコギリソウ、ローズマリーの3種をベースにジュニパーベリー、生姜、アニスシード、ナツメグなどでアクセント付けをしていました。
ホップを使ったビール造りが主流になってからはグルートの存在は忘れられてましたが、近年グルートを見直す動きが起こっているという話もあり、現在でもグルートを使って造られているビールも販売されています。
また他にもホップを使っていないビールの例として、アルバ・スコッツ・パイン・エールという松(パイン)の葉や芽を使った珍しいビールもあります。
気になる方は是非調べてみてください!
ホップの特徴がよく分かるオススメのビール3選
最後にホップの味が特徴的なオススメのビールを3つご紹介いたします!
ホップの違いによる味わいの違いを体験したい方は是非飲み比べてみてください!
1. カールストラウス アイソメライザーIPA
カールストラウスはアメリカのサンディエゴに拠点を構える醸造所です。
現在のビール造りではホップや、麦芽は単一品種ではなく数種類をブレンドした物を使っています。
このアイソメライザーIPAはホップはモザイクホップのみを使用し、モルトの特徴を抑え目にし、ホップの特徴を強めにすることで、モザイクホップの特徴がよくわかるビールになっています。
ちなみに商品名のアイソメライザーとはアイソマライゼーションという、ホップの成分であるα酸を熱反応によりイソα酸に変える工程のことを言います。
2. 胎内高原ビール シトラヴァイツェン(新潟県)
小麦を使ったヴァイツェンにシトラホップを使ったビールです。
香りは柑橘系の香りと桃とバナナのような甘い香りが合わさった印象的な香りです。
果物の甘い香りとシトラスの爽やかな香りと小麦を使ったビール特有の甘さと対照的なシトラホップの強い苦みが印象的で癖になるビールです。
余談ですが筆者が最も好きなビールの一つです!
3. サッポロビール 伝説のホップ SORACHI1984
こちらはソラチエースの香りが独特でとても印象的でした。レモンのようなさわやかな香りに、ハーブ、ヒノキの良い芳香を感じられ、苦味は弱く、味も爽やかな香りそのままの味わいでとてもおいしいビールです。
このホップの開発当初、国内はピルスナー全盛期でレモンの香りやヒノキみたいな香りが受け入れられないだろうと判断されてしまったそうです。
一応苗木を残すためにビール文化が進んでいるアメリカで栽培されていたところ、アメリカでソラチエースを使ったビールの人気が高まり、昨今のクラフトビールの熱の高まり具合を受けてこのホップを使用したビールを作るようになったとの事です。
このホップは北海道の空知(そらち)という場所で作られたホップで、空知という言葉の由来はアイヌの言葉でソーラップチ =『下る滝』という意味との事です。
多くのホップは滝が階段状に降ってる様子に似た形をしており、それが由来となったそうです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
下記、今回の記事の要点まとめです。
- ホップには多様な品種があり、それぞれ違った個性がある
- 味や風味だけではなく、泡持ちをよくさせて色を済ませたりの効果や、防腐効果などもある
- 各自治体の新たな町作りの一環で、国産ホップの栽培が行われており、クラフトビールブームが盛り上がっている
- ホップにはビールの材料だけじゃなく、食材や薬としても用いられることもある
この記事を通じて、ビール好きの皆さんにも、そうではない皆さんにも、ホップが少しでも身近に感じていただけたなら一愛好家として嬉しく思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございます!
それではまた!