エールビールとラガービールの違いとは?それぞれの味の特徴や歴史を解説します!
更新日:2020.06.08 / 投稿日:2020.02.28
こんにちは!休肝日がなかなか作れないCRAFT BEER TIMES編集部の熊倉です。
ビールには大きな括りで「エール」と「ラガー」の種類があることをご存知でしょうか?
実は世界に存在するほとんどのビールはこのエールかラガーのどちらかに分類することができます。
今回はこの「エールとラガー」について深掘りしていきたいと思います。
エールとラガーはクラフトビールの知識の中でも基本中の基本です。
ここをきっちりと押さえておくと、ビアスタイルやビールの造り方などほかの知識を理解する時にもきっと役に立ちます!
- エールとラガーってそもそもなに?
- なんでエールとラガーで味が変わるの?
この記事はそんな疑問を解決するような内容となっています。
それではエールとラガーの違いを一緒に学んでいきましょう!
エールとラガー
エールとラガーは、ビールの種類のことです。
この2つについてまず簡単にまとめますと下記のようになります。
- エール
-
上面発酵酵母によって醸造されるフルーティーでコクのあるビール
- ラガー
-
下面発酵酵母によって醸造されるキレが良く喉越しすっきりなビール
このように、エールとラガーは全く異なるタイプのビールなのです。
そして、エールとラガーの中にはさらに細かなビールの種類があります。
それがビアスタイルです。
具体的に例を挙げてみます。
エールに属するビアスタイル
- ペールエール
- IPA
- ヴァイツェン
- スタウト
- バーレイワイン
ラガーに属するビアスタイル
- ピルスナー
- デュンケル
- ボック
- ラオホ
上記のように分類されます。
エールに分類されるビアスタイルの方が香りや味わいが強く、ラガーに分類されるビアスタイルは爽やかで飲みやすいビールが多いことがわかります。
では、なぜこのようなビールの違いが生まれるのでしょうか?
実は、その秘密の鍵を握っているのは酵母の種類なのです。
上面発酵酵母と下面発酵酵母
あビールにとって欠かせない原料のうちの1つが酵母です。
麦芽の持つ糖分をこの酵母が食べてアルコールと炭酸ガスを発生させることで、ビールは造られます。
そしてエールとラガーを分ける上で決定的となるポイントが酵母の違いなのです。
ビール醸造には大きく分けて2つの酵母が使われます。
それが上面発酵酵母と下面発酵酵母です。
どちらの酵母が使われるかによって、そのビールの分類は変わります。
具体的には、エールには上面発酵酵母が使用され、ラガーには下面発酵酵母を使用されます。
上面発酵酵母はエール酵母、下面発酵酵母はラガー酵母と呼ばれることもあります。
上面発酵酵母と下面発酵酵母の比較
上面発酵酵母と下面発酵酵母の働きの特徴には大きな違いがあります。
以下にその違いをまとめてみました。
上面発酵酵母(エール)
発酵期間 | 3〜5日 |
---|---|
発酵温度 | 15〜25度 |
熟成期間 | 約2週間 |
酵母の動き | 麦汁の表面 |
下面発酵酵母(ラガー)
発酵期間 | 7〜10日 |
---|---|
発酵温度 | 5〜10度 |
熟成期間 | 約1ヶ月 |
酵母の動き | タンクの底 |
このように2つの酵母の特徴は対照的であるということがわかりますね。
この2つの酵母の違いは、もちろんビールの味わいにも大きな違いを与えます。
また、後述するエールとラガーの歴史を語る上でも非常に重要なポイントとなります。
エールとラガーの特徴
次に、エールとラガーの特徴と違いについて詳しく解説していきます。
大前提としてエールとラガーは以下のような特徴を持っています。
エール = フルーティーでコクがある
ラガー = キレが良く喉越しすっきり
では、エールとラガーになぜこの様な特徴が現れるのでしょうか?
エールの特徴
エールビールには豊かな味わいと独特なフルーティーな香りがあります。
この特徴は上面発酵酵母によって生み出されています。
アルコール発酵を行う酵母は、基本的に高めの温度(25~35度程度)で動きが活発になります。
そのため20度前後の常温に近い温度で発酵させるエールは、酵母がせっせと働いてくれるのです。
そのため発酵が旺盛に進み、アルコール度数も上がりやすく、味に深みを与える成分(乳酸やコハク酸など)も多く生み出します。
アルコールと炭酸ガスの生成のほかには、エステルと呼ばれる香り成分もたくさん発生させます。
上面発酵酵母が生み出す香りの表現としては、以下のものが代表的です。
- りんご
- 洋ナシ
- 桃
- バナナ
- プルーン
ホップやモルトでは出せないような個性的な香りが多いですね。
これらの香りはベルギービールや、ドイツのヴァイツェンなどに多く感じられます。
ラガーの特徴
ラガービールの特徴はなんといってもキレのいい喉越しです。
この味わいの秘密は低温での発酵・貯蔵にあります。
下面発酵酵母が使われるラガービールでは、5度〜10度の低温下で発酵が行われます。
温度の低い環境では酵母の活動は緩やかに進み、生成される香りや味の成分も少なめになります。
さらに低温での熟成を経ることで、タンパク質や、えぐみの原因となる物質などが沈殿しやすくなります。
それらを取り除くことでラガービールは清澄な見た目と、さらに雑味のないクリーンな味わいに磨きがかかるのです。
エールとラガー以外のビール
ちなみに少し話題は逸れますが、これまでビールにはエールとラガーの主に2つのタイプがあると説明してきましたが、実はこれらに当てはまらないタイプのビールもあります。
その一つが自然発酵ビールです。
自然発酵ビールは、培養された酵母ではなく自然界に存在する野生酵母が使われます。
野生酵母は発酵力が強く、エールやラガーにない特徴的な香味を生み出します。
また、自然発酵ビールは野生酵母以外にも自然界の様々な菌類によって発酵が行われるので、より一層複雑な香りと味わいが感じられます。
ベルギーのランビックなどは代表的な自然発酵ビールです。
他にはハイブリットビールと呼ばれるビールもあります。
ハイブリットビールとは、ある特定の酵母を本来とは異なる使い方をして造られたビールのことです。具体的には以下のようなものがあります。
- 下面発酵酵母を常温で発酵させる
- 上面発酵酵母を低温で発酵させる
- ワイン酵母を使ってビールを発酵させる
このような発酵が行われたハイブリットビールには、その酵母が持つ本来の特徴に加えて、それとは別のユニークな特徴が出たビールに仕上がります。
ドイツのアルト、アメリカのカリフォルニアコモンなどがハイブリットビールに該当します。
エールとラガーの歴史
ここまでエールとラガーがどのようなビールなのかを解説してきました。
そんなエールとラガーが現代に至るまで、どのような歴史を辿ってきたのかをここで振り返っていきたいと思います。
【古代】紀元前~紀元後:自然発酵からビールづくりはスタート
ビールというお酒が初めて造られたのは紀元前3,000~3,500年頃だとされています。
その頃のビールは野生酵母を利用した自然発酵ビールが造られていました。
紀元前3,000年頃にはメソポタミア文明のシュメール人によって、焼いたパンからビールを造っていたという記録が残っています。
時代は進んで紀元前6世紀頃になると、古代ゲルマン民族がパンではなく大麦や小麦からビールを造り始めました。
先述したように、当時のビールは自然発酵ビールであったため、現在のビールとは全く違う味わいであったことでしょう。
【中世】紀元後~18世紀:エールの発展
中世に入るとエールが広い地域で造られるようになりました。
最もエールが盛んだった地域はイギリスです。
イギリスは夏は涼しく冬は暖かい安定した気候であるため、エールづくりにはもってこいの環境だったのです。
9世紀頃からはエールハウスという今で言うところの「パブ」がイギリス各地に広がり、独自のエール文化を築いていくきっかけとなりました。
その結果かイギリスからは、ペールエール、ポーター、IPAなどのエールビールが誕生しています。
また、中世のヨーロッパはキリスト教の広まりとともに修道院が各地に建設され、様々な修道院ビールが造られていました。
その修道院ビールもほとんどがエールタイプのもので、この時代のヨーロッパのビールといえばそれは間違いなくエールであったと言えるでしょう。
一方、ラガーはというと、15世紀頃のドイツ南部にて密かに誕生します。
ドイツ南部のミュンヘンの醸造家は、夏の厳しい暑さによるビールの腐敗に悩んでいました。
しかし、ある時に冬の寒い時期にビールを仕込んで洞穴に貯蔵しておくと、春には美味いビールが出来ているということを発見しました。
これがラガービールの始まりと言われています。
「ラガー」とはドイツ語で貯蔵ことを意味し、これがラガービールの語源となっています。
ラガーは非常に手間がかかるビールであったため、この時点ではドイツの地ビール的な位置付けに留まりますが、後に爆発的に世界へと広がっていくこととなります。
【近代】19世紀〜20世紀後半:ラガーの台頭
近代はピルスナーの誕生、ビールの技術革新、資本主義の思想が合わさってラガービールの波が世界へと広がる時代でした。
1842年にチェコのピルゼンで黄金色のラガービールが誕生します。
これがピルスナーです。
濃色のコクのあるエールが主流だった時代に生まれた淡色ですっきりとした味わいのピルスナーは、当時のビール業界に多大な衝撃を与えたと言います。
また、「ビールの三大発明」と呼ばれる技術革新が起こったのも1800年代です。
- 1866年:パスツールの低温殺菌(ビールの腐敗防止)
- 1873年:リンデのアンモニア冷凍機(冷蔵の醸造設備)
- 1883年:ハンセンの酵母純粋培養(優秀な酵母の分離)
これらは全てラガービールの生産を後押しするような画期的な発見でした。
そして、産業革命以降の資本主義の思想がラガービールの大量生産を後押しすることとなりました。
ラガービールは安定した品質の製造が見込めますが、そのためには巨額の設備費用と長い熟成期間を凌ぐための資金が必要になります。
そのため、資本主義の台頭によって大きな力を得た大企業がラガービールの大量生産を開始しました。
ピルスナーのような黄金色で飲みやすいラガービールは大衆に好まれ、ラガーの市場はどんどん大きくなっていくこととなります。
その反面、エールは次第に影を潜めていくこととなります。
2度の世界大戦を経て、その主戦場となったヨーロッパの老舗の醸造場は疲弊しきってしまいます。
これによって伝統的なエールの造り手は消えていく一方で、ラガーを生産する大手企業は小規模醸造場の買収を繰り返してさらに力を増していきました。
【現代】20世紀末〜:クラフトビールによって多様性のビールの時代に
そして現代に至ります。
大手ビールメーカーの大量生産という流れは今にも引き継がれており、世界で生産されているビール全体の7割はラガー(ピルスナー)タイプのビールで占められています。
そんな中、1900年代の末ごろからアメリカでクラフトビールブームが起こります。
このムーブメントは、大手企業の大量生産ラガーの画一的な味わいに退屈さを感じていたアメリカのホームブルワー(趣味としてビールをつくる人)たちにより起こされました。
その波は世界へと広がりを見せ、味わいの多様なエールビールが再びクラフトブルワリーの手によって造られるようになりました。
ラガービールが世界の主流ということは今でも変わりありませんが、クラフトビールの流行によってラガーとエール、そのどちらのビールをいつでも飲むことができる環境が現在整いつつあります。
まとめ
今回はビールを分類する上での大きな括りであるエールとラガーについての解説をさせていただきました。
エールとラガーはビール初心者がおさえておくべきポイントでありつつ、突き詰めればさらに深く追求することのできる分野でもあります。
今回の記事のポイントをまとめると、
- エールとラガーの違いは酵母の違い
- エールは上面発酵酵母を使ったフルーティーでコクのあるビール
- ラガーは下面発酵酵母を使ったキレのあるのど越しスッキリなビール
- エールのほうが歴史は古く、ラガーは近代に入ってから主流になった
といった感じです。
エールとラガーには大きな違いはありますが、どちらのほうが優れているということはありません。
仕事終わりでクタクタになったときはラガーが最高ですし、週末にゆったり読書をしながら飲むにはコクのあるエールのほうが良いでしょう。
ぜひ、その時のあなたのライフスタイルに合わせてエールとラガーを飲み分けてみてくださいね。
それでは楽しいビールライフを!
【参考書籍】
藤原ヒロユキ(著) 「BEER HAND BOOK」株式会社ワイン王国
日本ビール文化研究会(著) 「改定新版 日本ビール検定公式テキスト」 実業之日本社
村上満(著)「ビール世界史紀行 ービール通のための15章」株式会社筑摩書房